前置き
私は社会人になってからいわゆる開発部にずっと所属しているのですが、前職でも、現職でも法務部とは何かと関わりがあります。
なので、以下のような点についてずっと気になってはいたのですが、どの本も敷居が高く、なかなか書籍を通じて体系的に学ぶことはできていませんでした。
- 法務部の仕事とはどのようなものか
- イケてる法務部員の方ってどのようにお仕事されているのだろう
最近発売された「成長を叶えるリーガルリスクマネジメントの教科書」は、漫画 + 文章の形式でかなり取っ付きやすそうな内容でしたので、今回読んでみました。
結論、かなりよかったので備忘録としてまとめておきます。
総評
筆者のAirbnbの法務部での経験をもとに、今の時代の法務部に求められている「攻めの法務 - リーガルリスクマネジメント」について述べらている本でした。
結論として、以下のようなことが述べられており、法務の判断によって事業のGlow or Dieが決まると言っても過言ではないとのこと。
個人・チームが、法律問題に対して、過去に目を向けリスク回避を最優先する姿から脱却し、かつリーガルリスクマネジメントを駆使することが求められている。
つまり、事業部側の相談に対して「リスクがあります。」と"だけ"言い続けていれば、それはいくつもの事業チャンスを葬ることに繋がりかねないと。
確かに新規事業などをはじめる際は、法務の方を必ず巻き込むと思うので、法務の方の助言が事業の行く末に直結するというのは、スッと理解できました。
そもそも、私はリーガルリスクマネジメントはなんぞやと思ったのですが、書籍内でリーガルリスクマネジメントは 「案件を前に転がしていくための技術」 というように表現されており、個人的にはこれがしっくりきました。
いわゆる「攻めの法務」ってこういうことなのかというのが、漫画と文章で上手く説明されていて、とても勉強になりました。
法務のお仕事
そもそも私は法務の仕事について疎いのですが、本書によると事業部側から案件を受けた場合、その案件に対してざっくり以下4つのプロセスを踏むようです。
- 法的リスクについて特定
- 分析
- 取れるリスクか否かを評価(代替案とリスク低減案を考える)
- 対応(選択肢を選定・実施)
筆者によると、法律・契約の問題の特定について(つまり上記プロセスで言うと、1, 2)は体系的に勉強をする機会があるが、リスクへの対応・リスクの低減策を考えることについては体系的に学習する機会はないとのことでした。
なので、リスクの特定・分析のみを行い「リスクがあります。」というような形で事業部側への返事を済ましてしまうことも多いとか。
なので、本書はとくに上記プロセスの3, 4について方法論などを提供すると述べられていました。
対応にこそ伸び代がある。
リスクの分析
本書では以下のような二軸でリスクの分析をすることが推奨されていました。
「起こりやすさ」と「結果の大きさ」からリスク分析すると事業部とのコミュニケーションもうまくいく。
リーガルリスクマトリクスと言って、5✖︎5の表を使い、上記二軸で分析してみるのがオススメとのこと。
社内文化
前例通りに結論を出すのをよしとする文化もあるので、攻めの法務を実践するのは大変だという描写も漫画の中で描かれていました。(これは法務部等に限らなさそうですね。)
やはり、心理的安全性の確保が最優先事項とのこと。これは開発部とかでも同じかもしれないですね。
心理的安全性とは、メンバーが対人関係のリスクを恐れることなく安心して率直に意見を述べられる状態(環境)
責任
意思決定の責任を負うのは事業部。法務は、意思決定の支援であり、責任の所在を具体的にしておかないと、問題多発というのも漫画内で描かれていました。
法務の仕事は、依頼者・事業部が十分な情報に基づいて意思決定をできるよう支援することであり、法務はビジネスジャッジの主体ではないという原則は貫かれるべき。
多くの部門を巻き込まなければいけない案件などは、「RASCIモデル」を使い、どの文書の誰がどのような権限・責任をもつかについてすり合わせを行うべきだそうです。
RASCIという言葉自体はじめて聞いたので勉強になりました。
練習問題
本書の最後の章では、シチュエーションごとの実践問題が書かれており、これも非常に勉強になりました。
ざっくり以下のような2つのシチュエーションで、法務部員あるいは弁護士としてどのように判断を下すかというのが書かれていました。
- スタートアップの法務部員。取引先との業務提携契約を結ぶか否かの判断。
- 法律事務所に所属する日本法弁護士。日本に事業を拡大しようとしているシンガポール法人の代理人として、アドバイスを行う。
この章は、法務部に交換留学をしているみたいな気持ちになれてよかったです。
まとめ
前置きで書いた、自分の中の疑問が本書によって解決されたので、よかったです。
- 法務部の仕事とはどのようなものか
- イケてる法務部員の方ってどのようにお仕事されているのだろう
今回漫画があることでやはりかなり理解しやすかったです! 次は、敷居が高そうと諦めていた本にも挑戦してみようと思います。